前回から続く。
上野駅を出発し、しばらくの間は単調な建築物だけの景色となる。尾久客車区の横を通過すると青色の寝台客車が何編成か休んでいる。ふと気が付くといつのまにか短い鉄橋で川を渡る途中で緑色が飛び込んでくる。そういえばあの長大な荒川鉄橋はもう越えてしまったのだろうか。一安心して寝入ってしまったようである。さらに市街地の中を通り抜け最初の停車駅大宮駅に進入する。大宮駅からは数グループの家族連れが乗車してくるが既に空席がないため座席中央の通路に陣取り背もたれの取っ手に寄りかかっている。それまで単調で静かだった車内が賑やかになる。大宮駅を過ぎた辺りから景色にも彩りがつき一戸建ての住宅や畑が多く目につくようになる。40分ほどで、いよいよ、2つ目の停車駅高崎駅である。高崎駅では沢山の家族連れがホームで待っていた。しかし、ほとんどが指定席客である。自由席は既に車内が一杯だったためほとんど入れ替わりなく再び列車が発車する。しばらくして安中、磯部、と、こまめに停車するがここでもほとんど車内の出入りはない。この辺りの景色はもう緑一色だ。次はいよいよ待ちに待った横川駅だ。横川駅手前で車内アナウンスが、次の横川で後ろに機関車連結のため4分間停車します、との事。このアナウンスも間もなく聞けなくなってしまうのか。車窓左側にこれから連結予定の補助電気機関車EF63の待避線が見えこれから後押ししようとする重連の機関車が準備をして待ってくれている。横川駅に進入すると間もなくおなじみ峠の釜めしの売り子さんが大きな声で客寄せをしているのが車内にまで良く聞こえてくる。今日は横軽を1往復半する予定なので駅弁はその時にしよう。ドアが開くと共に釜めしを買おうと皆が一斉に駆け寄る。いつもの横川ならではの光景である。同時に後ろの方では補助機関車EF63の心地よいブロアー音が聞こえ連結のための入れ換え走行を行っているようだ。座っている場所が先頭方向に近い事もあるがまったく連結ショックがない。ただ、いくつかのブレーキ弁や配管の音が聞こえてきたので無事連結作業は完了したようだ。8:38、いよいよ案内のアナウンスに続いて発車のベルが鳴り峠の麓の駅にしては静かに列車が動き出す。無事協調運転システムが作動している証しのようだ。車窓左側すぐの駅構内軽井沢寄りの横川運転区にはEF63が重連のまま何組みかが止まっている。しばらくすると右側には旧丸山変電所の古い色あせたレンガ造りの建物が通過していく。この辺りにも車窓の両側共にもう終盤を迎えた横軽通過列車を自分の手で撮影しようとする人たちのカメラ、三脚の列でごった返している。資料によるとこの辺りから徐々に登り勾配が増して行くはずであるが車両設備が良いためか実際に乗っていると急勾配のまっただ中にいる実感が湧いてこない。一つ目の短いトンネルを抜ける。登板のために全車両の台車の空気バネを抜き取っているため横方向の揺れが直接伝わってくるのがわかる。この頃からさすがに耳に違和感を感じはじめ唾を飲む。3番目の長いトンネルを抜けると熊の平信号所である。前後をトンネルに挟まれまて再びトンネルに潜って行く。登板もあと半分だ。この辺りにも沿線にカメラを構えた人たちが沢山いる。この辺りまでは徒歩ではおそらく無理なので多分自動車で来たのだろう。比較的短いトンネルをいくつもくぐり僅かなその隙間から深緑一色の風景が繰り返し見える。いよいよ上り詰めてトンネルが途切れた辺りが碓氷峠の最高地点である。この辺りはもう開発の手がまわっているため峠の最高地点という雰囲気はない。資料によると横川駅は標高386m、軽井沢駅は標高939mとある。その駅間約11kmの間に高低差約553mを無事登ってきた事になる。その後は短いなだらかな下り坂を経てあさま1号は横川駅を出発してから17分後の8:55に車内アナウンスと共に軽井沢駅へと進入する。EF63ありがとう。
軽井沢駅に到着すると、既に最後部はEF63の切り放し作業を目当てにカメラを持った人もそうでない人も家族連れも含めて人だかりになっている。私もそのうちのカメラを持った一人なのだが構内作業に支障がないように見守りたいところだ。そのためか駅構内のホーム端の機関車連結作業場の周辺には既にホームと平行にロープが張ってあり連結作業は見学できるが直接機関車には近づけないようになっている。今回の横軽ではないが時と場所によっては全面立
入撮影禁止の場合もあるのでせめてこの見学者に対するご好意を無駄にしないように最期の横軽を記録したいと思う。
次回に続く。
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